棚卸しを制する


飲食店の儲けの仕組みを知ろう

棚卸しとは?

飲食店経営において、おいしい料理や質の良いサービスの提供と同じくらい大事なのが数字の管理です。料理の腕が良くて人格的にも優れていても、数字を管理することが苦手なため店舗経営がうまくいかないという人は少なくありません。その中でも原価率の管理は利益に大きく関係してきますので、厳密にチェックしなければりません。そして、原価率を正しく管理するためには毎月の在庫管理を徹底しなければなりません。その方法が毎月決めた日に食材などの在庫の実数を調べて記録すること、つまり「棚卸し」です。

例えば、ワインを10本仕入れて、5本売ったとします。ここで、10本分すべてを原価として計算すると、5本は残っているので正確な原価率が出せません。そうならないように在庫を把握し、在庫金額を算出することによって、正確な原価率を算出するのです。棚卸しでは、お店にある消耗品、食材、製品、商品など、調理する前の原材料から仕込み中、出来上がっているがまだ冷蔵庫にあるものまで、販売前の全ての材料、商品の数量と原価を調べる必要があります。また、原価も仕入れた日によって違う場合は、それも考慮して計算しなければなりません。大変骨の折れる作業ですが、これを怠ると正確な原価率が出せずに粗利を計算できないばかりか、在庫ロスも把握できません。そうなれば経営者としてお店をコントロールすることができなくなるので、売上高があがっているけど実は儲かっていないなんてことにもなりかねないのです。

極端な話、棚卸しをしなくてもお店はやっていけます。なぜなら飲食店では日々の売上げがあり、日銭が入ってくるからです。そこから家賃を払い、バイト代や光熱費を払っていけばよいのです。それが個人事業主による経営に多い「自転車操業」と言われるものです。しかし、自転車操業ではお店が本当に儲かっているのかどうかわかりませんので、日銭は入ってくるけどずっと赤字経営を続けている可能性があるのです。そしてお金が回らなくなってはじめて赤字だったことがわかるのです。こんな経営ではもって3年で、10年やっていくのは到底不可能です。

正確な棚卸しの方法

棚卸しの主な目的は、

- 正確な原価率を把握し、粗利を確認すること

- 在庫ロスを把握すること

- 売れない在庫を把握すること

この3つです。これらを正確に知るために正しいやり方で棚卸しをする必要があります。正しい原価率計算は次式のとおりです。

売上原価=期首棚卸高+仕入高-期末棚卸高

「期首棚卸高」は、前月の棚卸し時の実在庫高。前月からの繰越分。「仕入高」は、今月仕入れた金額。「期末棚卸高」は、今回の棚卸し時の実在庫高。翌月への繰越分。

期首棚卸高と期末棚卸高を加味することで、前月使わずに今月使った材料・今月仕入れた材料・今月使わずに来月使う材料が明らかになり、正確な売上原価がわかります。棚卸しをせずに、単純にその月の仕入高を売上高で割った数字は原価率ではなく、「仕入率」と呼びます。では、仕入率ではなぜよくないのでしょうか。次のようなX店、Y店があったとします。

(表)

店舗 売上高 仕入高 期初在庫高 期末在庫高
X店 300万円 90万円 20万円 30万円
Y店 300万円 90万円 20万円  15万円

ある月の売上高、仕入高が同じX店とY店で、期初在庫高がともに20万円あります。X店は期末在庫高が30万円あったのに対し、Y店では在庫を減らして15万円あったとします。この場合、X店とY店の仕入率はともに90÷300×100で30%です。しかし、棚卸しをして、正確な原価率を算出するとX店は(90+20-30)÷300×100で約26%なのに対し、Y店は(90+20-15)÷300×100で31%となります。この差5%です。

img2

両店とも原価率30%を目標にして経営していたとしたら、棚卸しをせずに仕入率だけみればX店は目標達成しているようにみえますが、実際には目標に達していません。ということは実際には利益がでていないにもかかわらず、利益がでているように錯覚してしまうのです。これでは健全な店舗経営はできませんね、棚卸しがとても重要な業務だということがお分かりいただけたかと思います。

棚卸表

棚卸しは下表のような棚卸し集計表を使って行います。店内のすべての在庫品を網羅したリストに規格(重量や容量)、仕入金額を記録します。その際、以下のような注意点があります。

仕入れ品 規 格 仕入金額 在 庫 棚卸し額
10kg 2000円 20kg 5000円
牛ロース 20個 2000円 1.2kg 2400円
kg 400円 10個 200円
にんじん kg 400円 3kg 1200円
きゃべつ kg 150円 0.8kg 120円
         
         
合 計       8920円

○月末の営業終了後に行う。(決まった日に定期的におこなうこと)

○使えない食材などは在庫に入れない。(在庫ではなく廃棄ロス)

○使いかけの調味料やソースなども「0.7個」というように厳密に集計する。

集計した棚卸表の仕入金額を基に、いくらのものが何個あり、合計で何円分の在庫が現在お店にあるかを算出します。